植木武編著『国家の形成–人類学・考古学からのアプローチ–』

 国家とその形成をめぐる問題は、考古学の最重要課題の一つである。複雑多岐にわたる内容を、簡明に解説した文献を紹介しておく。

目次

1 初期国家の理論 Theories of State Formation 植木武
2 人口モデル Population Models 後藤明
3 灌漑モデル Irrigation Models 森本和男
4 闘争・戦争モデル Conflict and War Models 植木武
5 長距離交易モデル Long-Distance Trade Models 西村正雄
6 日本列島の国家形成 State Formation in the Japanese Archipelago 松木武彦
7 中国文明と国家の形成 Chinese Civilization and State Formation 童恩正

 1には、代表的な国家モデル、国家の定義が要領よく整理されていて役立つ。
 文化と国家とのかかわりで見ると、世界の100文化を横軸に並べ、縦軸に50の文化的特徴を書き出し、スキャログラム化して比較したBodleyの研究が紹介されている。
 ハワイとインカを比較すると、前者が30の特徴に、後者が47に印がついており、「2都市以上」「帝国」「1万人以上の都市」「建築あるいは工学技術先住者」「法典」などで差があること、それはインカが国家の中ではとくによく発達した例であるのに対し、ハワイは国家の中でも比較的単純な、研究者によっては高度に発達したがまだ首長制社会と考えられるような、社会であることの差である、というような解説が示されている。
 
 6の松木氏の論文を読めば、考古学的資料を材料に、研究者がどのように天下国家を論じるのか、理解しやすいと思う。

 考古学専攻生や院生、とくに国家形成期の日本列島およびその周辺地域に関わる勉強をしている人たちには、必携文献だろう。そうした人たちは、まだ入手できると思うので、早めにキープしておくことを薦める。書いてあること全てを鵜呑みにする必要はもちろんないが、手元にあるとたいへん便利で役立つ。「〇〇地方の××遺跡の□□式土器の一様相」といった地味〜な研究を進める傍ら、こうした文献で視野を広げておかないと、気が付いた時は蛸壺考古学だ(蛸壺の研究の意味ではない、念のため)。

参考文献

植木武編著(1996年)『国家の形成-人類学・考古学からのアプローチ-』三一書房(4500円)