国家形成の諸段階
都出比呂志による日本列島中央部への理論の適用
指標と資料(史料)の対比
指 標 | 首長制…弥生時代 | 初期国家…古墳時代 | 成熟国家…律令国家 |
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①階級関係と身分制 | 首長は存在するが階級的支配者でない。 | 階級関係が顕在化して,首長は支配者に転化する。 | 階級関係は身分として固定され増幅される。 |
(集落) | 環状集落の内廓に首長が住み、外廓内部に成員が住むという差異はあるが、首長と成員の両者が共存する。 | 首長居館と農民の屋敷地とに分裂し、首長の居住区が隔絶する。 | 都市には居住地班給の身分秩序、農村には屋敷地の大小の秩序がある。 |
(墓制) | 首長一族の墳丘墓と一般成員の共同墓地とに分かれるが、隣接しあって共存し、隔絶していない。 | 前方後円墳などの首長墓が一般成員の共同墓地(密集土壙墓群)と隔絶する。 | 墓制は身分表示の重要な指標ではなくなる。 |
(租税) | 大きな環濠集落では首長が集落共有の倉庫群を管理する。租税の性格は顕著でない。 | 首長居館の租税収納用の大型倉庫群、個別農民の屋敷地の倉、倉のない集落の3層に分化している。 | 租・庸・調という税制が確立している。 |
②権力関係・中央と地方 | 首長と一般性員とを結ぶ血縁紐帯(擬制を含む)の比率が大きい。円錐クラン的関係が社会の統合原理になる(母村と分村、墳丘墓の形態別の大小の系列関係)。 | 前方後円墳被葬者に体現される地域ごとの地域権力と中央の中央の政治センターが併存している。前方後円墳体制の身分制は出自と実力に基づく相互承認関係である。 | 二官八省の中央官制と国司郡司機構が基礎となっている。身分制は上からの叙任関係である。 |
③武装の形態 | 環濠集落の首長と一般成員が一体となった武装と戦闘の体制があり、基本的に人民の武装の段階である。 | 中央権力では「平西将軍」などの将軍制、杖刀人の首と杖刀人という軍事編成がある。地方権力は首長居館とその衛兵をもつ。人民の武装ではない段階となっている。 | 衛府と軍団からなる律令軍制が成立している。 |
④流通機構 | 巨大な環濠集落内に手工業工房があり、特産品や石材など、稀少品の交易・流通を首長が管理する。共同体外との関係は相互的で上下関係はない。 | 塩、須恵器、玉などの生産に従事する共同体や専業集団があり、生産品を中央権力と地方権力へ貢納する。朝鮮半島南部の鉄素材入手ルートは中央権力が掌握している。 | 鉄を含む調などの税制が流通システムの一環になる。国家が干渉しうる流通機構といいうる。 |
⑤東アジアの対外政策の主体 | 首長連合の代表ごとの交渉(漢倭奴国など)が外交の単位となっており、倭人全体を代表する機構は成立していない。 | 卑弥呼、倭五王などを頂点とする倭人を代表する政治センターが存在する。 | 律令制の中央政府が外交活動を独占する。 |
【出典】都出比呂志(1996)『国家形成の諸段階-首長制・初期国家・成熟国家』歴史評論551号
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