制海権 / command at sea

海軍戦略論の巨匠マハン

 先に考古学協会に先んじて発表要旨を公開した際、概念の定義をめぐって偉そうなことを言っておきながら、自分は無定義でいろいろな概念を勝手に使っている、たとえば制海権についても、その意味を定義せずに使っているというご指摘を得た。

 というわけで、遅ればせながら制海権の定義を考えてみたい。といっても、私ごときが勝手にあれこれと思いつきをコネ繰り回しても、いたしかたあるまい。やはり、第一人者の考えを尊重しておきたいと思う。海のクラウゼヴィッツ、『海上権力史論』の著者、マハンの考えに学んでみよう。

 困ったことに、マハンはその著作の中心課題として「制海権」を扱いながら、あまり厳密にその定義をしないで「制海権」の語を用いているらしい。通常用いられるcommannd at seaの他に、controling the seaの語も使っているそうである。とまれ、

自己の目的を達成するために海洋を使用し、敵がこれを使用することを拒否する自由

というのが、他の権威の考えも含めた基本的な定義のようだ。

 ジュリアン・コーベット(Julian Corbett)によれば、敵に何もさせないというような絶対的なものではなく、戦争の推移に重大な影響を及ぼすほどの障害を、海上交易あるいは海を越えて行う作戦に及ぼさせない、あるいは敵が相当程度の危険と損害を覚悟しなければ、その交易と作戦を実施させない、換言すれば、敵は味方の海上交通線に対して効果的な攻撃を加えることができず、かつ敵が自らの交通線を使用あるいは防衛できないことである、という。さらに、「制海権」の確保は、敵艦隊との戦闘によって決着をつける他に方法はないとされる。

 以上の定義ないし説明にしたがえば、白村江の戦いで「倭」が日本海ないし対馬海峡の制海権を失ったということの意味が、ある程度は明確になると思う。

参考文献

山内敏秀編著『戦略論体系5 マハン』2002、扶桑書房出版
コーベット著、矢吹啓訳『海洋戦略の諸原則』2016年、原書房
アルフレッド・T・マハン 著、 北村謙一訳『マハン海上権力史論 (新装版) 』 2008、原書房