戦術単位 / tactical unit

ハプスブルク帝国の野戦

 戦術単位とは、独立して作戦任務を行いうる最小部隊である。すなわち、独力をもって兵種固有の戦術上の力を発揮できる兵力を有し、かつ一人の音声をもって号令できる最大限の部隊を指す。一定の兵站組織を具備し、必要な器具材料を携行する。今日の軍隊では、歩兵大隊、騎兵中隊、砲兵中隊などが戦術単位とされる(連隊とする文献もあったが明らかに間違いだろう)。歩兵は大隊、騎兵や砲兵は中隊より下では、もはや戦術単位ではなくなるとされる。独立した軍隊組織として戦闘する能力を失うからである。

 律令期軍団の兵員は、千から六百である。これはほぼ今日の歩兵大隊に相当するとみてよいだろう。律令期軍団もまた一つの戦術単位として認識されていたとみられる。

 ところで、先に示した律令期軍団の戦列イメージでは、騎兵を考慮していない。実際には、軍団によってその規模は異なるものの、一定程度の騎兵組織を所有していた。

 とくに信濃や甲斐、上野などの軍事組織は、それなりの規模の騎兵を編成していたであろう。常識的には、歩兵を主力として正面阻止部隊とし、騎兵がその両翼に配置される、という陣形が想定される。しかし、壬申の乱の記事を見ると、今日の中隊規模以上の騎兵集団が、独立した戦術単位として臨時編成されることもあったとみられる。さらに、常時、騎兵中隊規模の部隊として編成されている軍事組織があった可能性もある。

片岡徹也・ 福川秀樹(戦略研究学会編)戦略論大系〈別巻〉『戦略・戦術用語事典』2003/2、芙蓉書房出版