T字戦法

 新潟県北部、阿賀北地方の方々の運転マナーははっきりいって悪い。大きな通りに進入する場合、なぜかいきなり突っ込んでくる。あるいはその気配を見せて人を驚かせた後、急ブレーキを踏んで道路に車の頭を出して止まる。こちらは、そのたびに、びっくりさせられる。この地域の運転文化らしい。むやみに車間距離を詰める車も多い。不思議なのは、ここがむしろ温厚な気風の土地柄であることだ。両者の落差がどこから生じるのか、よく分からない。いずれにしても、新潟県でも交通事故による死亡者が一番多い地域だそうだ。それはそうだろう。みんなであんな運転していたら、事故が起きない方が不思議。「どうやったらそんな難しいぶつかり方ができるの?」という事故を最近も二度目撃した。

 無茶というか無頓着というか、ウィンカーも出さずに、いきなり右折する車も多い。まさにロジェストヴェンスキー提督も真っ青、いや東郷平八郎も真っ青か、とにかく敵前の大回頭……、と以前どこかで書いたが、史実としての敵前の大回頭は「左折」であるから、厳密に言うと正確な表現ではない。

 敵前の大回頭といえば、今年は日本海海戦100周年記念の年である。東郷指揮下の連合艦隊は左前方にバルチック艦隊を発見すると、あの有名なZ旗を掲げ、間合いを取りつつ接近、敵前8000メートルの地点でまず三笠が左にほぼ180度の大回頭、続く艦船も逐次左に大回頭し、敵主力の先頭をその左側から斜めに圧迫し、行く手を遮った。先頭艦の三笠に敵火力が集中したが怯まず接近、彼我の距離が6500メートルに達した地点で反撃を開始。この時点でT字態勢が完成した。その後は、よく知られているように世界の海戦史上例を見ない一方的な殲滅戦が展開した。

日本海海戦

 さて、日露戦争の時代ともなれば、軍事史研究に利用できる多くの文字資料それどころか写真や地図すら残されている。それでも、研究ではさまざまな説、さまざまな評価に議論が分かれる。古墳時代あるいは古代の軍事史となると、残されているのは基本的にわずかばかりの文字資料と考古資料のみ。そこから何をどう導きだせるのか。難しく、危険に満ちているが、同時に興味の尽きないテーマである。などと思いに耽っている時間はないんだけれど。

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