マルクスの言葉?

チャールズ・ダーウィンの戯画

 かつて所属していた測量会社(パン屋さんじゃなくて)パスコの社長(現SECOM会長の木村昌平氏)が、次の「ダーウィンの言葉」をよく引用していた。

最も強い者が生き残るのではない。
最も賢い者が生き延びるのでもない。
唯一生き残るのは、変化できる者である。

ダーウィン?

 SECOMの「現状打破の精神」を示す標語として社内のあちらこちらにコピーが貼られていたのを思い出す。たしかに、なかなか気の利いた言葉ではある。

 当時、この言説に接した私は「いったいダーウィンのどこから引っぱってきたの?」と『種の起原』(もちろん翻訳)を何度かパラパラやってみたが見つからない。もしかしたらと『ビーグル号航海記』もめくったが見つからない。……ダーウィンはそんなこと書いていないんだから見つかる訳ないのである。そもそも、件(くだん)の言説と本来の進化論の考えの間にはかなりの隔りがあると思う(ドーキンスの解説本を読むまでもなく)。さすがに最近は、この「伝説」の誤りが認識されるようになったようだ。そもそも、何万年単位の生物の進化と、場合によっては瞬時に変化しなければならない企業の変化を、一緒に議論することに無理があったんじゃないのかしらん。

 さて、もう一つ出典が分からないで気になっている言説がある。四半世紀以上も前の某新左翼のアジビラにあった

無知が栄えたためしはない。

カール・マルクス?

 という言葉だ。皮肉たっぷりな、いかにもマルクスが吐きそうな台詞ではある。しかし、どこに書いてあるのか分からない。『ドイツ・イデオロギーデ』にも『経済学哲学草稿』にも、どこにも見つからなかった。もしかしたら、ビラを書いた奴がふざけたのかもしれない。結局、今日まで分からずじまいである。マルクスの著作はどこか書棚の片隅の埃の堆積の下に埋まっているはずであるが。

 何かの折に「無知」に遭遇すると(たいがい自分のだが)、かならずこの言葉が胸を刺す。たとえば、今回の後藤先生の研究をめぐる己の無知に気づいた時のように。

 どなたか、出典を知りませんか? と書いたあと、ネットを検索したら、どこかの会議でマルクスがそうどなったらしいことが分かったが、詳しくはやはり不明。

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